神戸地方裁判所 昭和42年(ワ)150号 判決 1968年12月23日
原告
安垣実
被告
有限会社三宮自動車鈑金工作所
ほか二名
主文
被告有限会社三宮自動車鈑金工作所、同加藤泰之は各自原告に対し金一〇四万五八一八円及びこれに対する昭和四二年二月二五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告の被告有限会社三宮自動車鈑金工作所及び同加藤泰之に対するその余の請求並びに被告柳井良彦に対する請求を棄却する。
訴訟費用中、原告と被告有限会社三宮自動車鈑金工作所及び同加藤泰之との間に生じたものはこれを二分し、その一は原告の、その余は右両被告の負担とし、原告と被告柳井良彦との間に生じたものは原告の負担とする。
この判決は、原告勝訴の部分にかぎり仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、「被告らは各自原告に対し金二四五万八一五一円及びこれに対する昭和四二年二月二五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。
一、昭和四一年五月二〇日午後八時二〇分ごろ、神戸市灘区大石東町一丁目一八番地先路上において訴外富山実が運転し原告が乗車していた普通乗用自動車(兵五あ一〇一九号、以下「被害車」という。)に、これに追従して走行中の被告加藤泰之運転の普通乗用自動車(神戸五わ〇〇七八号、以下「加害車」という。)が追突し、このため原告は鞭打ち症及び頭部打撲による脳浮腫の傷害をうけた。
二、本件事故は、被告加藤が加害車を運転して時速約五〇キロメートルの速度で前記道路を西方から東方に向けて進行中、先行車である被害車が進路前方の横断歩道の手前で制動措置をとつたのに、同被告は被害車が停車せずにそのまゝ進行するものと軽信して十分な制動措置をとらなかつたこと及び加害車の左側の自動車の進行に気をとられて前方注視を怠つたこと、当日は雨が降つており、かつ加害車のタイヤが摩耗してスリツプしやすい状態であつたのにこの点につき注意を怠つたこと、などの過失に基因するものであるから、同被告は本件事故によつて生じた後記損害を賠償する責任がある。
三、被告有限会社三宮自動車鈑金工作所(以下「被告三宮自動車鈑金工作所」という。)は自動車の修理、販売業を営む会社であり、被告加藤は同会社の従業員であり、被告柳井はドライブクラブを経営する者であるが、本件事故は、被告加藤が事故当日被告柳井から同人所有の加害車を借受けると共に加害車のマフラーの取付金具の修理を依頼され、加害車を運転して肩書地にある被告加藤の自宅へ帰る途中に発生したものである。しかして、加害車に対する直接占有は被告加藤が加害車を被告柳井から借受けて運転を開始した時に被告加藤に移転するが、被告加藤は被告柳井から加害車の修理を依頼されて持帰ろうとしていたのであから、被告三宮自動車鈑金工作所が被告加藤の占有を通じて加害車に対する占有を取得したというべきである。そうすると、被告三宮自動車鈑金工作所は被告加藤の運転行為を介して加害車の運行を支配しており、かつその運行は被告三宮自動車鈑金工作所の業務の執行にもあたるから、運行利益をも受けているというべきである。したがつて被告三宮自動車鈑金工作所は加害車を自己のために運行の用に供する者として自動車損害賠償保障法第三条の規定にもとづき本件事故によつて生じた後記損害を賠償する責任がある。仮に同法条の規定にもとづく責任がないとしても、本件事故は被告三宮自動車鈑金工作所の被用者である被告加藤が同会社の事業を執行中に発生したものであるから、被告三宮自動車鈑金工作所は使用者として民法第七一五条の規定にもとづき本件事故によつて生じた後記損害を賠償する責任がある。
四、被告三宮自動車鈑金工作所の工場は被告柳井の営業所の近くにあり、被告柳井はその所有自動車の修理をすべて被告三宮自動車鈑金工作所に依頼していた関係から、被告加藤と被告柳井とは親密な関係にあり、また被告加藤は本件事故当日被告柳井から加害車を借受けてこれを自宅に持帰つたうえ、翌朝被告三宮自動車鈑金工作所の工場で修理して被告柳井に返還する旨を約したのであるから、右は翌朝までという期間の定めのある使用貸借である。したがつて、被告柳井は加害車を自己のために運行の用に供する者というべきであるから、自動車損害賠償保障法第三条の規定にもとづき本件事故によつて生じた後記損害を賠償する責任がある。
五、原告は本件傷害により次の損害を蒙つた。
1 治療費その他の費用 金七一万九〇四九円
(一) うすき病院関係
(1) 入院料、注射料等 金一八万五四六円(昭和四一年五月二〇日から同年六月一一日までの分)
(2) 入院中の副食費 金二万八五九五円
(3) 入院中の牛乳代(四二本分) 金一〇五〇円
(4) 氷嚢、水枕、便器、尿瓶、吸呑代 金一〇二〇円
(5) タオル(二二枚分) 金二七〇〇円
(6) 交通費 金八七九五円(原告が入院中妻が付添のため自宅病院間を往復したもの、片道一一回バス代金四九五円、片道四四回タクシー代金八三〇〇円)
(二) 劉外科病院関係
(1) 入院料、処置料等 金二二万八八六〇円(昭和四一年六月一一日から同年八月一日まで入院、同年八月四日から同年一一月三〇日までの間に三五回通院治療をうけた分)
(2) 入院中の副食費 金七万二七四三円
(3) 入院中の牛乳代(一四一本分) 金三五二五円
(4) 氷嚢、吸呑、尿瓶代 金四四〇円
(5) タオル(三二枚分) 金三七〇〇円
(6) 氷入用のジヤー 金四九五〇円
(7) 扇風機 金一万四五〇〇円
(8) 交通費 金三万一七四五円(原告が入院中妻が付添のため自宅病院間を往復したもの、片道八八回タクシー代金三万一四一〇円、八回バス代金一六〇円、五回電車代金一七五円)
(9) 通院交通費 金六万八〇二〇円(昭和四一年八月四日から昭和四二年二月八日までの間に五九往復タクシー代金三万八九四〇円、昭和四二年二月九日から同年一〇月三一日までの間にバス、国電、タクシーを乗り継ぎ八五往復代金二万三八〇〇円、八往復タクシー代金五二八〇円)
(三) 神戸大学付属病院関係
(1) 入院料 金二万一五二〇円(昭和四二年四月二四日から同年五月一七日までの分)
(2) 入院中の副食費、氷代等 金二万九八九〇円
(3) 交通費 金七七三〇円(原告が入院中妻が付添のため自宅病院間を往復したもの、二〇往復電車、タクシー代)
(4) 通院交通費 金一五二〇円(二往復タクシー代)
(四) その他
(1) 時計修理代 金三三〇〇円
(2) サングラス 金二〇〇〇円
(3) 頸椎用装具 金一九〇〇円
2 得べかりし利益の喪失による損害金三六万四一〇二円
原告は本件事故当時訴外日東運輸株式会社に乗用自動車の運転手として勤務し、一か月金五万一一六〇円の給料及び年二回の賞与を得ていたところ、本件傷害のため稼動できなくなり事故の翌日である昭和四一年五月二一日以降欠勤したため、同年七月一日から昭和四二年九月三〇日までの間に給料の減収額は合計金四一万七六四六円、賞与の減収額は合計金一五万九四三円となつたが、訴外川崎重工業健康保険組合から傷病手当金として合計金二〇万四四八七円(昭和四一年一二月四日から昭和四二年九月三〇日までの分)受領したので、これを差引いた残額金三六万四一〇二円の得べかりし利益を失い同額の損害を蒙つた。
3 慰藉料 金二〇〇万円
原告は本件事故直後から現在に至るまで本件傷害につき入院及び通院治療を続けているけれども、現在においても左頬部の痙攣、後頭部痛、頭重感、耳鳴等の症状があり、右症状は将来も全治する見込みはなく、精神的苦痛は甚大である。この慰藉料は金二〇〇万円をもつて相当とする。
六、以上の損害額の合計は金三〇八万三一五一円となるが、原告は自動車損害賠償保障法の規定による損害賠償として金四三万円及び被告加藤からの損害賠償として金一八万五〇〇〇円の各支払を受けたのでこれを差引いた残額金二四六万八一五一円の内金二四五万八一五一円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四二年二月二五日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
なお、被告らの抗弁に対し、被告加藤より昭和四二年一一月二九日金三万円の支払を受けたことは認めると述べた。
被告ら訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
請求原因事実第一項中、原告主張の日時場所においてその主張のような追突事故が発生したことは認めるが、原告の受傷の部位、程度は不知。同第二項は争う。事故当時富山運転の被害車と被告加藤運転の加害車とは前後関係になつて本件道路を東進していたところ、事故現場の信号のない横断歩道手前で被害車が進路をやや左に変えながら停車したので、被告加藤もその後方に停車しようとしたが、ブレーキの利きが良くなかつたのでもう一度ブレーキを踏込んだところ、折からの小雨のためスリツプして被害車の右後部と加害車の左前部とが衝突したものである。同第三項中、被告三宮自動車の鈑金工作所が原告主張のような会社であり、被告加藤が同会社の従業員であること、被告柳井がドライブクラブを経営していること、被告加藤が被告柳井から同人所有の加害車を借受けると共に加害車のマフラーの取付金具の修理を依頼され、加害車を運転して自宅へ帰る途中本件事故が発生したことは認めるが、その余は争う。当日被告加藤が被告柳井から加害車を借受けたのは加害車を自己の私用に供するためであり、また修理依頼を受けたのは被告加藤個人であるから、被告三宮自動車鈑金工作所は本件事故につき責任がない。同第四項中、被告加藤と被告柳井とが知合いであること、本件事故当日被告柳井が被告加藤に加害車を貸与し運転を許容したこと、被告加藤が加害車を修理して返還する旨を約したことは認めるが、その余は争う。被告柳井は加害車を被告加藤の私用に供するために貸与したものであるから加害車の運行支配は借主である被告加藤にあり貸主である被告柳井にはないから、被告柳井は本件事故につき責任がない。同第五項の1 2は不知、3は争う。同第六項中、原告が自動車損害賠償保障法の規定による損害賠償として金四三万円及び被告加藤からの損害賠償として金一八万五〇〇〇円の各支払を受けたことは認める。
抗弁として、被告加藤は、さらに昭和四二年一一月二九日原告に対し損害賠償として金三万円の支払をしたと述べた。
〔証拠関係略〕
理由
一、原告主張の日時場所において富山実が運転し原告が乗車していた被害車に、これに追従して走行中の被告加藤運転の加害車が追突したことは当事者間に争がなく、〔証拠略〕を総合すると、被害車の後部左側座席に乗つていた原告は加害車に追突された衝撃によりその頸部が急激な過伸展及び過屈曲を強制され、その際後頭部を座席頂部付近に取付けられた金具に打つたので、直ちにうすき病院に入院して昭和四一年五月二〇日以降治療を続けたが、次第に頭痛が激しくなり歩行も困難となつたことから、転医して同年六月一一日に劉外科病院において検査を受けたところ鞭打ち症、頭部打撲による脳浮腫と診断され、当時の症状として頭痛、頭重感、頸部痛、吐き気、目眩等があり、同病院において同年八月一日まで入院治療及び同日以降通院治療を続けたこと、その結果吐き気、目眩などの症状は軽快したが、依然として頭痛、頭重感等がとれないので昭和四二年四月二四日から同年五月一七日までの間神戸大学付属病院に入院して同病院第一外科において精密検査を受けたところ脳動脈硬化症と診断され、それ以後再び劉外科において同年一二月二六日に至るまで通院治療を続けたこと、しかし原告において左後頭部痛、耳鳴り、顔面知覚不全麻痺、肩関節痛等の症状は昭和四二年一一月六日以降ようやく固定化の傾向にあること、以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。(もつとも脳動脈硬化症の点については、証人劉善夫の証言によると、健康な者であつても老年になるとある程度脳動脈が硬化するものであることが認められるけれども、同証人の証言及び原告の本人尋問の結果によると、原告は本件事故当時満四九才であつて脳動脈が硬化するほどの年令とはいえないし、本件事故前には脳動脈硬化症の診断を受けたこともないこと、仮に事故前に多少の脳動脈硬化症状があつたとしても、その症状は本件事故により急速に悪化したものといえることが認められ、反対の証拠はない。そうすると、原告において固定化の傾向にある前記各症状は脳動脈硬化症を含めてすべて本件事故によつて生じた傷害というべきである。
二、そこで本件事故が被告加藤の過失によつて発生したものであるか否かにつき判断する。〔証拠略〕によると、本件事故現場付近の道路はほぼ東西に通ずるアスフアルト舗装の道路であつて、幅員約一九メートルの車道及びその両側に歩道が設けられ、南北に横断歩道が設けられていること、本件事故当時は雨が降つており路面がぬれていたこと、被告加藤は加害車を運転して時速約五〇キロメートルの速度で右道路左側中央線寄りを西方から東方に向けて進行し、右横断歩道の手前約三四メートルの地点に差しかかつた際、進路約一三メートル前方を同方向に進行中の被害車の制動燈が点いたこと及び進路左前方の横断歩道直前に軽四輪車が停車しているのを認めたが、横断者が見当らなかつたので(甲第七号証の三によると当時右横断歩道を北から南に向けて歩行者が横断中であつたことが認められる。)、被害車は停車しないでそのまま進行するものと軽信して右軽四輪車に気をとられて前記速度のまま進行し、被害車が横断歩道の直前に停止したのを約一〇メートル手前に接近して気付き、これとの衝突の危険を感じて急制動の措置をとつたが及ばず、被害車に追突したことが認められ、被告加藤の本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。およそ自動車の運転者としては、先行車の一台が横断歩道手前で停車しており、更に自車の前方を同方向に進行中の先行車が制動燈を点けた場合には、先行車の動静を注視し、必要に応じこれとの間に安全な距離を保つて急停車することができるよう速度を調節し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず、被告加藤はこれを怠り、被害車の動静に注意を払わず漫然と同一速度のまま進行したため前示のような追突事故を惹起したものであるから、本件事故は同被告の過失によるものである。したがつて同被告は本件事故により原告が蒙つた後記損害を賠償する責任がある。
三、被告三宮自動車鈑金工作所が自動車の修理販売業を営む会社であり、被告加藤が同会社の従業員であること、被告柳井がドライブクラブを経営していること、被告加藤が被告柳井から同人所有の加害車を借受けると共に加害車のマフラーの取付金具の修理を依頼され、加害車を運転して自宅へ帰る途中本件事故が発生したものであることは当事者間に争がなく、〔証拠略〕を総合すると、被告加藤は被告三宮自動車鈑金工作所において鈑金工として働くと共に注文主のところへ自動車を取りに行つたり、修理等の完成後に注文主のところへ自動車を届ける等の業務にも従事していたこと、本件事故当日同被告がその勤務を終えてからのち午後七時ごろ知人の被告柳井方へ遊びに行つて雑談しているうち、たまたま雨が降つてきたので、被告柳井から好意的に自動車を貸してもらうにいたつたが、そのさい同被告はそのドライブクラブの業務用の自動車でマフラーの取付金具が破損しているが運行自体にはさしつかえのない加害車を被告加藤の用に供するとともに同被告に対して右破損箇所の修理を依頼したこと、被告柳井は被告三宮自動車鈑金工作所の得意先であつて自動車の鈑金の必要な場合にはもつぱら被告三宮自動車鈑金工作所に依頼していたこと、被告加藤は被告柳井の右修理依頼を請けて被告三宮自動車鈑金工作所のために加害車を預かり、翌朝同被告の作業場において修理するつもりで加害車を運転して自宅へ帰る途中に本件事故を惹起したことが認められ、被告加藤の本人尋問の結果中右認定に牴触する部分は措信しがたく、ほかに反対の証拠はない。そうだとすると、被告加藤が加害車を運転した行為は、勤務時間外のもので、かつ私用に供される面も併存していたとしても、被告三宮自動車鈑金工作所がその業務のために加害車を本件運行に供したものにほかならないというべきであるから、同被告は自動車損害賠償保障法第三条本文(人的損害)及び民法第七一五条第一項本文(物的損害)の各規定にもとづき本件事故により原告が蒙つた後記損害を賠償する責任があるというべく、右両法条但書に各規定する免責事由の主張立証はない。
四、原告は、被告柳井は加害車を自己のために運行の用に供する者であるから自動車損害賠償保障法第三条の規定にもとづく損害賠償責任があると主張し、加害車が被告柳井の所有であること、被告加藤が事故当日加害車を私用に供するため柳井から借受けた面の存することは前示のとおりであるけれども、他方被告加藤は加害車を借受けると共にその修理を依頼されたものであつて、加害車の運転行為は被告三宮自動車鈑金工作所の業務執行にあたるというべきである。ところで、一般に自動車の修理業者に修理の依頼がなされた場合には特段の事情のないかぎり注文者から自動車修理業者に対する自動車の引渡しと共に自動車の運行支配は自動車修理業者に移転すると解すべきである。したがつて本件においては事故当時には被告柳井の加害車に対する運行支配は失われていたとみるほかなく、他に被告柳井が加害車を自己のために運行の用に供していた事実はこれを認めるに足りる証拠がない。
五、本件傷害により原告が蒙つた損害につき判断する。
1 治療費その他の費用
(一) うすき病院関係
〔証拠略〕によると、原告は事故直後の昭和四一年五月二〇日から同年六月一一日までの間うすき病院に入院し、同病院に注射料、入院料、個室料として合計金一八万五四六円を支払つたほか、右入院期間中に牛乳代(四二本分)として合計金一〇五〇円、氷嚢、水枕、便器、尿瓶、吸呑代として合計金一〇二〇円、タオル代(二二枚分)として合計金二七〇〇円、原告の妻よし子が原告の付添のために自宅病院間を往復した交通費(バス及びタクシー代)として合計金八七九五円の各支出をしたことが認められる。〔証拠略〕によると、原告は右期間中に副食費として合計金二万八五九五円の支出をしたことが認められるけれども、特段の事情の認められない本件においては、原告が右入院治療中に必要とした副食費は前認定の牛乳代を含め一日金一〇〇円の割合による二二日分合計金二、二〇〇円と認めるのが相当である。(牛乳代を控除すると金一、一五〇円となる。)
(二) 劉外科病院関係
〔証拠略〕によると原告は昭和四一年六月一一日から同年八月一日までの間、劉外科病院に入院し、同年八月四日から昭和四二年一二月二六日までの間に合計一五三回にわたり通院治療を受け、同病院に投薬料、注射料、処置料、入院料等として合計金二二万八八六〇円を支払つたほか、右入院期間中に牛乳代(一四一本分)として合計金三五二五円、氷嚢、吸呑、尿瓶代として合計金四四〇円、タオル代(三二枚分)として合計金三七〇〇円、原告の妻が原告の付添のために自宅病院間を往復した交通費(タクシー、バス及び電車代)として合計金三万一一六五円、原告の通院交通費(タクシー、バス及び国電代)として合計金二万四一二〇円の各支払をしたことが認められる。原告の請求中右金額をこえる部分はこれを認めるに足りる証拠はない。〔証拠略〕によると、原告は右入院期間中に副食費として合計金七万二七四三円、氷入用ジヤー代金として金四九五〇円、扇風機代金として金一万四五〇〇円の各支出をしたことが認められるけれども、このうち副食費についてはうすき病院における副食費と同様の理由により前認定の牛乳代を含め一日金一〇〇円の割合による五二日分合計金五、二〇〇円(牛乳代を控除し金一、六七五円)の限度で本件傷害と相当因果関係のある損害と認むべく、また氷入用のジヤー及び扇風機は原告の治療完了後も残存してそのまま使用できるものであるから、この購入費用全額を損害とみることはできず、右入院中の使用による損害額はこれを算定すべき資料がない。
(三) 神戸大学付属病院関係
〔証拠略〕によると、原告は昭和四二年四月二四日から同年五月一七日までの間神戸大学付属病院に入院し、同病院に入院料として合計金二万一五二〇円を支払つたほか、原告の妻が原告の付添のために自宅病院間を往復した交通費(電車及びタクシー代)として合計金五三三〇円、原告の入退院、入院中の一時帰宅、検査を受けるための通院交通費として合計金三九二〇円の各支出をしたことが認められる。原告は右入院期間中に副食費及び氷代として合計金二万九八九〇円の支出をしたと主張するけれどもこれを認めるに足りる証拠はない。
(四) 〔証拠略〕によると、原告は本件事故のために破損した腕時計の修理代として金三三〇〇円、原告が劉外科病院に入院中医師の指示により購入したサングラスの代金として金二、〇〇〇円、頸椎用装具の代金として金一九〇〇円の各支出をしたことが認められる。
2 得べかりし利益の喪失による損害
〔証拠略〕によると、原告は本件事故当時日東運輸株式会社に乗用自動車の運転手として勤務し、一か月平均金五万一一六〇円の給料及び年二回の賞与を得ていたところ、本件事故のため稼働できなくなり事故の翌日である昭和四一年五月二一日以降欠勤したため(但し昭和四二年三月二日から同年四月九日までの三九日間は事務関係の仕事をした。)、昭和四一年七月一日から昭和四二年九月三〇日までの間の減収額は給料が合計金四一万七六四六円、賞与が合計金一五万九四三円となることが認められるところ、原告が川崎重工業健康保険組合から傷害手当金として合計金二〇万四四八七円(昭和四一年一二月四日から昭和四二年九月三〇日までの分)受領したことは原告の自認するところであるから、前記合計額からこれを差引いた残額金三六万四一〇二円の得べかりし利益を失い同額の損害を蒙つたものというべきである。
3 慰藉料
原告は本件傷害につき事故直後の昭和四一年五月二〇日から昭和四二年一二月に至るまで入院及び通院治療を続けたけれども全治に至らず、なおも前記の後遺症状が続いていることは前示のとおりであり、多大の精神的苦痛を蒙つたものと認められる。しかして、前示のごとき本件事故の態様、受傷の部位程度、治療に従事した経過後遺症状の程度、原告の年令その他本件証拠によつて認められる諸般の事情を斟酌すると、原告に対する慰藉料は金八〇万円をもつて相当と認める。
六、以上の損害額の合計は金一六九万八一八円となるところ、原告が自動車損害賠償保障法の規定による損害賠償として金四三万円及び被告加藤からの損害賠償として合計金二一万五〇〇〇円の各支払を受けたことは当事者間に争がないから、これを差引いた残額は金一〇四万五八一八円である。
七、よつて、本訴請求は、被告加藤及び同三宮自動車鈑金工作所に対し金一〇四万五八一八円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四二年二月二五日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲において正当であるからこれを認容し、被告加藤及び同三宮自動車鈑金工作所に対するその余の請求並びに被告柳井に対する請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 原田久太郎 中川幹部 三谷忠利)